「十字軍物語 2」(はてな年間100冊読書クラブ 69/100)

十字軍物語2

十字軍物語2

  • 有能で優れた人物は褒め称え、無能な人物には容赦無く

大作「ローマ人の物語」シリーズで著名な
著者の塩野七生さんが現在取り組んでいるのが
この「十字軍物語」シリーズですね。
有能で優れた人物に対しては褒め称え、
無能な人物に対しては容赦無い(笑)「塩野節」は、
ローマ人の物語」に引き続き健在ですね。
著者の作品が好きな方なら、楽しめる内容だと思います。
また、内容が「十字軍」ということで、当然ながら
現在まで続いている、キリスト教イスラム教の
宗教対立の要素も含まれています。
しかし、日本人である著者は、
宗教的なしがらみには縛られず、
両者(と両者の人物)に、公平に光を当てていますね。
公平な立場で書ける、というところは
宗教的なバックグラウンドがある西洋人には難しく、
日本人ならではのメリットかな、という感じもしました。

  • 十字軍国家の黄昏と、イスラム側には英雄が登場

本書では、第一次十字軍により建国された
十字軍国家の「守成の難しさ」が主な内容になっていますね。
「聖地エルサレム」を中心に建国された十字軍国家ですが、
本拠の西欧からは遠く、常に兵力不足に悩まされます。
一方のイスラム側も、西欧由来の城壁に守られた
十字軍国家を攻めあぐみ、暫くは膠着状態が続きますね。
しかし、十字軍国家側では、
第一次十字軍の英雄達が次第に退場し、
無能な人物が権力を持ったりするようになり、
衰退の兆候が見え始めます。それとは反対に、
イスラム側では有能な人物が現れ、
スンニ派シーア派の内部対立を解消したりして、
次第に攻勢になって来ますね。
このイスラム側をまとめたのが英雄サラディン
といった感じの流れですね。

  • 異教徒間でも、お互いが認めあえば、道理は通じますね

十字軍とイスラム側との戦争は、
いわば宗教対立ですから、「異教徒は皆殺し」とか、
そういった印象を抱きがちです。
しかし、本書の最後の、サラディン
十字軍側のイベリンとの撤退をめぐる交渉シーンなどは、
お互いが相手の実力・人間性を認めあえば
異教徒間でも道理が通じる、素晴らしい光景でしたね。
これぞ中性の騎士道精神、という感じでしたね。
他にも、孤軍奮闘する十字軍国家の
若き「らい病」の王・ボードワン一世や
サラディン登場の前に、イスラム反撃の基盤を作った
ヌラディンなど、歴史を彩る魅力的な人物が登場して
物語を盛り上げていますね。最後まで興味深く
読み通すことが出来た、という感じです。