「お別れの音」(はてな年間100冊読書クラブ 35/100)

お別れの音

お別れの音

  • 「片想い」に、やがて訪れる「別れ」がテーマ?

日常の何気ないシーンを取り上げた、
6本の短編小説集ですね。タイトルの「お別れ(の音)」が、
どのストーリーにも共通した内容になっていますね。
普通、別れのシーンには、自分と相手の存在があります。
この小説で取り上げられている「別れ」は、
「「自分」の、自意識過剰的な片想い」に
焦点が当てられているところが、ポイントって感じですね。
「片想い」とはいっても、必ずしも恋愛に限られません。
6本の短編の中には、「大学の学食で働く
パートのおばちゃん(主人公)が、
毎日出会う女子学生に対して、
娘に対するような「(母性的な)想い」を抱き、
最後にはその女子学生を尾行までしてしまう」
といった内容のストーリーもありますね。
主人公のおばちゃんと女子学生の接点は、
「学食で食べ物を受け渡しする」という点でしかなく、
主人公のおばちゃんの母性的な想いは、
もちろん女子学生は知らないですね。
これも一種の「片想い」だと思います。

  • 最後に背筋が寒くなる(^^;)短編もありますね…

6本の短編の中で、個人的に一番インパクトが強かったのは、
これは恋愛が絡みますが「役立たず」という短編でしたね。
昔の同級生からのメールで、恋心に火がついた主人公が、
最後の最後で思いもしない事実を突きつけられる
(=主人公は嘗てその同級生の友人と付き合い、
振っていますが、未だ傷ついている友人のために、
同級生が主人公に復讐した)、という内容でした。
私も男なので(笑)最後のこのどんでん返しは
背筋が寒くなった思いでしたね…(^^;)
同級生とのメールのやり取りを通じて、
恋心を高ぶらせていく主人公の様子は、
自分もよく解りますから…(笑)

  • 「恋が始まる」かと思いきや…

意外な展開といえば、OLの主人公と
靴の修理工を扱ったストーリーもそうでしたね。
主人公は友人に「ああいうタイプ(修理工)が好み」と
言われて、修理工のことを意識し始めます。
主人公の視点から、修理工のことを観察する記述や
修理工に対する自意識などが語られたりすると、
「これは恋が始まるか?」という流れなのですが、
「お別れ(の音)」というタイトルに沿って、
そういう展開にはならないのですね…(^^;)
結局最後まで、主人公の「片想い」
(もっとも「片想い」とはいっても、
あまり恋愛感情は感じられなかったかな…)
に終わっているのですね。こんなところにも
「日常の何気ないシーンを取り上げた」
という点が、出ているかと思います。