「引き出しの中のラブレター Listen to My heart」(はてな年間100冊読書クラブ 1/100)

引き出しの中のラブレター

引き出しの中のラブレター

  • 映画「引き出しの中のラブレター」の、小説版

昨年映画で公開された「引き出しの中のラブレター」、
その小説版ですね。タイトルは「ラブレター」となっていますが、
内容は「男女の愛」だけには限られていないですね。
「面と向かっては直接言えない思いを、手紙に託して伝える」
ことが、本書のメインテーマ、という感じですね。
ストーリーは、結婚と仕事の間で悩む「ラジオのパーソナリティ」、
そのラジオのリスナーである、「高校卒業後の進路に悩む少年」、
「親友に裏切られて、刹那的に生きるようになってしまった女性」
「シングルマザーの道を選ぼうとしている女性」、
様々な登場人物の物語が、ザッピング感覚で進んでいきますね。
一人の主人公&一つのストーリーだけではなく、
様々なストーリーが交互に展開していくこの構成は、
視聴者を飽きさせないようにする、映像作品ならではの、
仕組みであると言えるかと思います。

  • 「面と向かっては言えない」主人公達は、皆不器用ですね…

「面と向かっては直接言えない思いを、手紙で伝える」
本書の登場人物は、皆不器用な人が多いですね。
不器用なため、自分の本心が伝えられずに
誤解を生んだり、険悪になったりしています。
人間関係でもよくあるパターン、という感じですね。
ラジオパーソナリティーの真生は、
仕事に疲れて実家に帰ったところ、父親と喧嘩してしまい、
それ以降和解出来ぬまま、父親が亡くなってしまいます。
進路に悩む少年は、なかなか言い出せなかった
「漁師になりたい」という思いを、父と祖父に伝えます。
このような感じで、登場人物達の苦悩は、
読者にとっても身近な内容であるため、
理解もし易いのではないかと思います。
生きている間に思いを伝えられれば良いのですが、
真生の例のように、永遠に和解出来ぬままになってしまい、
亡くなった後で初めて本心に気づく…というのは、
双方が後悔したままということになってしまいます。
こんな悲劇は、避けたいところですよね。

  • 新堂作品に対する、警戒感はありましたけど…(^^;)

本書の作者、新堂冬樹さんの作品は、
以前「忘れ雪」という作品を読みました。
「忘れ雪」は、最初はラブストーリーかと思いきや、
終盤になると、一転してサスペンスに変わってしまいました。
そのストーリーのあっと驚く転換ぶりは、
個人的には受け入れ難かったですね…(^^;)
そんな前科のある(笑)新堂さんの作品ですから、
今回もまた終盤のどんでん返しがあって、
読者は奈落の底に突き落とされるのでは…
といった、警戒感がありました…(笑)
しかし今回は、普通にハッピーエンドで終わりましたね。
加えて、物語の最初は「ザッピング感覚の、様々な登場人物」
でしたけど、ストーリーが進行するにつれて、
登場人物相互の間に新しい関係が出来たりします。
「ラジオの番組」をきっかけにして、
最終的には、それまでは赤の他人同士であった登場人物が、
何らかの形で繋がるようになりましたね。
ここは上手い仕掛けであったな、と思いました。