「ひとり日和」(はてな年間100冊読書クラブ 63/100)

ひとり日和

ひとり日和

  • 芥川賞受賞作ですが、難解な内容では無く

少し前に話題となった、第136回の芥川賞受賞作ですね。
芥川賞」と聞くと、難解そうな内容を想定してしまいます。
しかし、若い著者が書いた、内容的にも下記の通り
現代を舞台にしており、読み易い内容に仕上がっていますね。
主人公の知寿は20歳、母が転勤するため、
遠い親戚となる71歳の吟子さんの家に、居候することになります。
年の離れた二人の、一見穏やかな同居生活を
淡々と描いた内容に仕上がっていますね。
手軽に読め、この小説の世界に入り込めるかと思います。

  • 人物の設定には、現代的な色付けが

一方で、二人の登場人物の設定には、
現代的な色付けがしてありますね。
知寿はフリーターで、将来への展望が見えず、
また自身の恋愛も上手くいきません。
知寿自身には、閉塞感が漂っている感があります。
このあたりは、不景気による就職難が続いている現代と
その波に飲み込まれている若年層の典型、
といったところでしょうか。
これに対して、吟子さんは恋愛が順調に進んでいたりして、
生活に張りがある、「元気なお年寄り」って感じですね。
普通であれば、「老人が若者の若さに嫉妬する」
展開になりそうなのですが、この小説では、
不安定な状況の知寿が、安定している生活を送っている
吟子さんにむしろ嫉妬するような、展開になっていますね。
そんな知寿の嫉妬や八つ当たりを、
吟子さんは年の功から、受け流しているような印象がありました。

  • 表に出す若者と、表に出さない老人の様子が、対象的ですね

そんな一見穏やかな、しかし心理的には
見えないバトルも展開しながら(笑)
1年ほど同居生活を送ってきた二人ですが、
ある時、再就職をきっかけに、知寿が家を出ることを決意します。
吟子さんはいつもの如く、淡々と見送るのですが、
内心はどうだったのでしょうか。
吟子さんの家の前を通る電車に乗ると、
懐かしさから思わず家を凝視してしまう知寿…
という感じで、ストーリーは終わっています。
感情や思いが抑えきれずに、表に出てしまう知寿と、
常に淡々としていて、感情を表に出さない吟子さんの
対象的なところが、現代を反映した
登場人物の設定とあわせて、印象に残りましたね。