「いくさ物語の世界―中世軍記文学を読む」(はてな年間100冊読書クラブ 58/100)

いくさ物語の世界―中世軍記文学を読む (岩波新書)

いくさ物語の世界―中世軍記文学を読む (岩波新書)

  • 「戦記「文学」物語なので、史実を歪める一面も

平家物語」をはじめとした、鎌倉時代に成立した
中世の軍記文学作品を読み解く本ですね。
華やかな源平合戦源義経源為朝などの
英雄の活躍が生き生きと描かれている一方で、
敗者や死者の悲哀が胸を打ちます。
また、軍記「文学」作品ということで、
一部には史実を歪めているところもあるようです。
そのあたりを、当時の摂政・九条兼実の日記「玉葉
などと比較しながら、どちらが史実として正しいのか、
また間違っている場合は、どうして史実を歪めたのか、
といった分析をしていますね。

  • 史実を歪めるのは、時代の風潮に合わせるため

例えば保元の乱で敗れた源為義が、
勝者側の息子・源義朝に斬られる場面では、
史実から見ると、為義・義朝の親子は反目したようですが、
文学上は「子が親を斬らなければいけない」悲哀に
大きく焦点をあてていたりするようです。
このあたりは、道徳面の影響が考慮されているようですね。
また、当時は、承久の乱武家鎌倉幕府)が
公家(後鳥羽上皇)を倒したりしており、
「武力至上主義」の風潮があったため、
源為朝の怪力ぶりが強調されたりしているようです。
なるほど色々な理由によって、脚色化されているんだな、
といった感じですね。そういえば中国の歴史書は、
各王朝の歴史書は、その王朝を倒した次王朝によって
編集されていました。そのため、自王朝を正当化するために
最後の王(例えば隋の煬帝)の残虐ぶりが
強調されていたりしていますね。
それと同じような意味合いってところでしょうか。

  • 面白さは増しますけど、「死者に口無し」といった面も‥

まぁ脚色化されたからこそ、「平家物語」は現在まで
戦記文学として残った&琵琶法師の朗読など、
庶民にも愛されたとも言えるかと思います。
歴史ファンとしては、史実を知りたいという
思いはあるのですが、一方で文学的に脚色されていると、
読んでいて面白さは増しますよね。
ただ、平清盛の息子のうち、長子の重盛は
「親の非道を戒める、孝行息子」といった面が脚色され、
一方で平家を継いだ平宗盛は、
「優柔不断で平家を破滅に導いた、バカ息子」
という面を強調されています。
実際の重盛は、嫉妬心から破滅的な行動に
出たこともあったそうですね。
歪められた真実である「バカ息子」という点が
脚色されて、後世まで語り継がれていく、
というのは、本人にとっては
たまったものではないような気もしますけど‥(^^;)
まさに「死者に口無し」といった感じですね。