「偽装請負―格差社会の労働現場」(はてな年間100冊読書クラブ 119/100)
- 作者: 朝日新聞特別報道チーム
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/05/11
- メディア: 新書
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- 実質は人材派遣の「偽装請負」
朝日新書ということで、新聞の連載記事をまとめたものですね。
最近は偏向報道で叩かれることの多い朝日新聞ですが、
本書の内容は渾身の取材結果、という感じがしました。
キヤノン・松下電器という名だたる大企業の、
偽装請負のカラクリを暴露していますね。
請負とは、本来「あるものを期限までに作って
納入して欲しい」と請負業者に依頼し、
請負業者が自らの指示の元で製造を行い、
依頼業者に納入する、というケースです。
しかし、偽装請負については、
請負業者が人材を依頼業者に派遣するだけであり、
実際には依頼業者の工場にて、
依頼業者の指示によって働く、といった感じですね。
本来は人材派遣のはずなのですが、
人材派遣では依頼業者側に
コスト面でのデメリットがあるため、
請負を装う、というのが「偽装請負」です。
- コスト削減の手法として、日本に残る製造業で採用されて
円高の進行と中国などの新興国の発展により、
競争激化にさらされた日本の製造業は、
多くは海外に活路を求めていきました。
一方で、技術流出を恐れるハイテク産業は、
海外進出によるリスクがあるため、
国内に残って製造を続ける道を模索します。
その結果、労働力のコスト削減の手法として
法の盲点を突いて考え出されたのが
この「偽装請負」という手段である、って感じですね。
・必要な時だけ雇い、いつでもクビを切ることができる。
・社会保険料などのコストを出来るだけ抑える
偽装請負には上記のようなメリットがあるため、
国内生産を続けても競争力が落ちず、
加えて企業は不況から脱して最高益を達成し続けます。
その影には、こういった偽装請負制度の下で、
低賃金にあえぐ労働者がいる‥という感じです。
- 不安定な立場のまま、将来の不安を抱える「請負社員」
この本では、そういった労働者の中で
待遇の改善を求めた労働者に焦点をあてていますね。
待遇改善を求めることにより、いわゆる「問題社員」
扱いされ、契約の更新を止められるなどの
嫌がらせを受けたりする有様も描かれています。
給料体系など、劣悪な条件に置かれながらも
会社が・仕事が好きだと請負社員は
この本の中で発言しています。
しかし、会社側は生産数が落ちる等で
不要となれば容赦なく請負社員との契約を打ち切ります。
将来への希望が見えずに、安定しない地位のまま
働き続けなければならない請負社員の姿は、
最近話題のネットカフェ難民の姿と
重なるものがありますね。若者層を使い捨てている
格差社会の暗部といったところでしょうか。
- キヤノン・御手洗氏は労働者の大敵!
そういえばキヤノンは、日本型終身雇用制の維持など、
従業員に対して優しい会社のような感じがしていましたが、
その裏で実は容赦なく請負作業者を切り捨てているんですよね‥
加えて、キヤノンの御手洗冨士夫会長は、
経団連会長の地位を乱用して、違法な偽装請負を
合法化するように企んでいたりしています。
先日廃案になった、残業代を廃止しようとする
「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入しようと
していたことといい、御手洗氏は労働者の敵ですな。
現在は労働組合への参加者が減少していると言われており、
労組連合の中で最大の「連合」も存在感が薄れていると
言われていますが、こういう御手洗氏のような
労働者に優しくない経営者を徹底的に追及し、
追い込むべきであると感じます。
もっとも、本書を出版した朝日新書から
その御手洗氏自身の手による
「御手洗冨士夫「強いニッポン」という本が
本書の発売以前に出版されているのは、
なんだか凄く皮肉な現象ですよね‥(^^;)
実はキヤノン・御手洗氏を追及している
本書のカバーにも、好評既刊として
「強いニッポン」の名前がありますから‥(笑)
ということになると、御手洗氏への批判は
朝日新書の自己矛盾ということになってしまいますね。