「偽装請負―格差社会の労働現場」(はてな年間100冊読書クラブ 119/100)

偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)

偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)

 

朝日新書ということで、新聞の連載記事をまとめたものですね。
最近は偏向報道で叩かれることの多い朝日新聞ですが、
本書の内容は渾身の取材結果、という感じがしました。
キヤノン松下電器という名だたる大企業の、
偽装請負のカラクリを暴露していますね。
請負とは、本来「あるものを期限までに作って
納入して欲しい」と請負業者に依頼し、
請負業者が自らの指示の元で製造を行い、
依頼業者に納入する、というケースです。
しかし、偽装請負については、
請負業者が人材を依頼業者に派遣するだけであり、
実際には依頼業者の工場にて、
依頼業者の指示によって働く、といった感じですね。
本来は人材派遣のはずなのですが、
人材派遣では依頼業者側に
コスト面でのデメリットがあるため、
請負を装う、というのが「偽装請負」です。

  • コスト削減の手法として、日本に残る製造業で採用されて

円高の進行と中国などの新興国の発展により、
競争激化にさらされた日本の製造業は、
多くは海外に活路を求めていきました。
一方で、技術流出を恐れるハイテク産業は、
海外進出によるリスクがあるため、
国内に残って製造を続ける道を模索します。
その結果、労働力のコスト削減の手法として
法の盲点を突いて考え出されたのが
この「偽装請負」という手段である、って感じですね。
・必要な時だけ雇い、いつでもクビを切ることができる。
社会保険料などのコストを出来るだけ抑える
偽装請負には上記のようなメリットがあるため、
国内生産を続けても競争力が落ちず、
加えて企業は不況から脱して最高益を達成し続けます。
その影には、こういった偽装請負制度の下で、
低賃金にあえぐ労働者がいる‥という感じです。

  • 不安定な立場のまま、将来の不安を抱える「請負社員」

この本では、そういった労働者の中で
待遇の改善を求めた労働者に焦点をあてていますね。
待遇改善を求めることにより、いわゆる「問題社員」
扱いされ、契約の更新を止められるなどの
嫌がらせを受けたりする有様も描かれています。
給料体系など、劣悪な条件に置かれながらも
会社が・仕事が好きだと請負社員は
この本の中で発言しています。
しかし、会社側は生産数が落ちる等で
不要となれば容赦なく請負社員との契約を打ち切ります。
将来への希望が見えずに、安定しない地位のまま
働き続けなければならない請負社員の姿は、
最近話題のネットカフェ難民の姿と
重なるものがありますね。若者層を使い捨てている
格差社会の暗部といったところでしょうか。

そういえばキヤノンは、日本型終身雇用制の維持など、
従業員に対して優しい会社のような感じがしていましたが、
その裏で実は容赦なく請負作業者を切り捨てているんですよね‥
加えて、キヤノン御手洗冨士夫会長は、
経団連会長の地位を乱用して、違法な偽装請負
合法化するように企んでいたりしています。
先日廃案になった、残業代を廃止しようとする
ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入しようと
していたことといい、御手洗氏は労働者の敵ですな。
現在は労働組合への参加者が減少していると言われており、
労組連合の中で最大の「連合」も存在感が薄れていると
言われていますが、こういう御手洗氏のような
労働者に優しくない経営者を徹底的に追及し、
追い込むべきであると感じます。
もっとも、本書を出版した朝日新書から
その御手洗氏自身の手による
御手洗冨士夫「強いニッポン」という本が
本書の発売以前に出版されているのは、
なんだか凄く皮肉な現象ですよね‥(^^;)
実はキヤノン・御手洗氏を追及している
本書のカバーにも、好評既刊として
「強いニッポン」の名前がありますから‥(笑)
ということになると、御手洗氏への批判は
朝日新書の自己矛盾ということになってしまいますね。