「夜のピクニック」(はてな年間100冊読書クラブ 29/100)

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

  • 久しぶりにのめりこんだ小説でしたね

先日感想を書いた「地下鉄(メトロ)に乗って」と同じく、
こちらも映画化された原作小説ですね。
本屋大賞受賞作」だそうです、
この「本屋大賞」がどんな賞なのか
私は詳しくは知らないのですが(笑)
確かに面白かったですね。
久しぶりにのめりこんだというか
「良い小説に出会えたなぁ」という感じです。
作者・恩田陸さんの母校の伝統行事であるという
全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通す
歩行祭」を舞台にして、
ヒロイン・甲田貴子と異母兄弟・西脇融、
そして貴子と融の友人達が加わって
ストーリーが展開していきますね。

  • 時間的には一日の出来事ですが、中身は非常に濃く

時間軸的には、「歩行祭」の丸一日に過ぎないのですが、
紙幅は400ページ以上に渡っており、
非常に中身の濃い内容になっていますね。
例えば同じ時間帯でも、貴子に視点をあてた箇所、
そして融に視点をあてた箇所と
分かれていたりするためですが、
よくこれだけ緻密に描けるものだと
思わず感心したりしてしまいました‥(^^;)
特に人物配置とかは、しっかり計算されているな〜
という印象を受けましたね。
また、作者の恩田陸さんは
私よりもはるかに年上の方なのですが(^^;)
主人公の高校生達を上手く、リアルに描いていますね。
私も読んでいて思わず高校生時代の気持ちを
思い出したりしてしまった位ですから。
主人公の貴子が、受験科目の多い(数学が必須)の
国公立大学の受験を諦めて、私立大学専願を決めたことを
「転ぶ」と表現しているところとか、
自分も学生時代は貴子と同じ感じでしたから、
読んでいて思わず苦笑いしてしまいました‥(^^;)

  • 重い設定も、主人公の明るさで救われて‥

ストーリー的には、上記のように
主人公の貴子と融は異母兄弟であり、
「融の父親が浮気して出来た子が貴子」という設定のため、
貴子は融に対して後ろめたい気持ちを持っており、
融は貴子の存在が許せない、という状態になっています。
貴子はこの歩行祭中に「融と話をして、和解したい」という
誓いを抱いて臨む‥という感じで進んでいきますね。
上記のような背景がありながら、貴子を卑屈にせず、
「明るいのんびり屋さん」という性格に設定したところが
この小説を重苦しさのない、明るい展開にしていますね。
まぁ貴子がそんな設定なので、
「貴子を憎んでいる」という位置づけの融は、
序盤は残念ながら劣って見えてしまいますね‥(^^;)

  • お互い友人思いなところもマル

貴子と融は出生の悩みを抱えていて、
両方ともそれを「恥」と感じており
誰にもその事を話さない(話せない)ため
後ろめたさを抱いています。
そんな貴子と融にもそれぞれ親友がいて、
歩行祭中は彼らと一緒に歩いていく事になります。
そして友人たちがこれまたお互い思いやりのある
まさに「親友」って感じで、読んでいて非常に
すがすがしい気持ちになりました。
例えばこのようなエピソードがありました。
「実は貴子の親友は、貴子の秘密を既に
貴子の母親から聞かされているのですが、
自分からその事を切り出さずに、
ずっと貴子を見守っている。」
「みんな友達思いのええ奴やな〜」という感じですね。
登場人物に思い入れを持って読む事が出来たこともあり、
よりこの小説が楽しめたのかな、と思います。
私も学生時代に、こんな親友が欲しかったな〜
まさに懐かしき青春モノって感じの小説でしたね。