「地下鉄(メトロ)に乗って」(はてな年間100冊読書クラブ 13/100)

地下鉄に乗って (講談社文庫)

地下鉄に乗って (講談社文庫)

  • タイムスリップ物なのですが、楽しい展開ではなく‥

少し前に映画化された小説ですね。
ということで興味を持って読んでみました。
父親に反発して家を出ていた主人公の真次は、
毎日の通勤で使っている地下鉄の駅を上がると
30年前の昔に突然タイムスリップしてしまい、
反発していた父の過去に向き合うことになります。
タイムスリップといえば、映画だと「バック・トゥ・ザ・フューチャー
シリーズのような、楽しい感じのストーリーが多いのですが、
この小説の内容は重いというか、主人公が嫌っていた
父親の過去の姿や真相や兄の自殺の真相など、
いわゆる「封印された過去」と向き合っていくことになりますね。
そして恋人・みち子の秘密も明らかになっていき、
最後には‥という展開です。

  • 途中から父と和解するストーリーかな?とも思ったのですが‥

ファンタジー系のストーリーであれば、
「兄の自殺の場面にタイムスリップして、兄を救う」
という感じの展開になりそうなのですが、
上記の通り兄の自殺には父親の過去等も関わっているため、
この小説ではそうは問屋が卸しません(^^;)
戦争に出征する父、そして戦後の闇市で違法な商いに手を出す父‥
必死に生き抜いてきた間に変わってしまった父の過去を知り、
そして兄の自殺の場面にスリップするも
兄を救えない主人公‥そして最後には、
最愛の恋人・みち子まで失ってしまうことになりますね。
読み進めていく上で、父の過去を知った主人公が、
必死に生き、その結果今では多少偏屈にもなってしまった(笑)
父を自分の中で受けとめて、
父と和解する展開なのかな〜と思いましたけど、
これまた予想を外されたな、という感じがしました。
ラストのヒロイン・みち子の選択も個人的には意外であり、
納得出来ないものがあったりもしました‥

  • 過去の&地下鉄の描写は見事

また、タイムスリップ先の描写はリアリティがありましたね。
戦後の闇市、あるいは戦前の出征時の様子に合わせて、
今現在では古さが目立つものの、当時では最新鋭であり、
子供達(当時の父)の憧れであった地下鉄を
上手く結び付けてありますね。
私は毎日地下鉄を使って通勤しているため、
今では毎日「乗らされている」という感が強いのですが、
そういえばたまにしか乗らなかった小学生当時とかは、
私が電車好きなこともありますけど(^^;)
地下鉄に乗るのも楽しみだったことを覚えています。
当時はまだ冷房車両が無くて、
窓を開けていると地下鉄独特の臭いが
漂ってきたりもしたのですが、
この本にはそのあたりの記載もあって、
読んでいるとノスタルジックな思いにさせてくれますね。