「満月の夜、モビイ・ディックが」(はてな年間100冊読書クラブ 52/50)

満月の夜、モビイ・ディックが

満月の夜、モビイ・ディックが

  • 闇を抱えている主人公・ヒロイン

世界の中心で、愛をさけぶ」で一躍著名となった
片山恭一さんの恋愛小説ですね。
今回は、大学生の主人公・鯉沼とその恋人の香澄、
友人のタケルの3人が織り成すストーリーです。
「各キャラはいずれも内面に闇を抱えている」というのが
この小説のテーマでしょうか。鯉沼の両親は不仲という設定で、
タケルも屈折したところがありますが、
香澄はもっと深い闇を抱えていて‥という感じですね。

「ヒロインが精神的な問題を抱えている」という設定は、
村上春樹さんの「ノルウェイの森」の登場人物、
直子や緑を思い起こさせます。そういえば「ノルウェイの森」と、
小説の全体的な雰囲気も似ているって感じですね。
「鯉沼が近づけば近づこうとするほど、
香澄は鯉沼から遠ざかろうとする」場面とか。
性行為の描写があるところも、「ノルウェイの森」と同じですね。
しかし、「ノルウェイの森」は、性行為の描写などもあって(笑)
読了後に凄い感銘を受けたのを覚えていますが(^^;)
(登場人物の性格も上記のように未だに記憶に残っていますね)
今回はそこまでのインパクトは無かったですね。
ノルウェイの森」をはじめて読んでから
もう10年以上が経ち、私が年を取ったことと(苦笑)
「二番煎じ」という思いがあったからでしょうか。
あと、最近読んだ本では、白石一文さんの「一瞬の光」も
「ヒロインが闇を抱えている」という系統でしたね。
こちらは本当の暴力を受けている、というケースでしたけど。

  • 序盤は少し退屈でしたけど、中盤以降は面白く

あと、この小説の序盤は、主人公の鯉沼がこだわりを持つ
モーツアルトや釣りについての薀蓄を述べる場面が多く、
読んでいて少し退屈に感じました。これらに詳しい人なら、
薀蓄を楽しめるのでしょうけど。
鯉沼が香澄と仲良くなっていくところから
徐々に面白くなりはじめて、そして3人での逃避行から
香澄の自殺未遂と展開が速くなっていきますね。
ノルウェイの森」の主人公は、
直子を失った後で緑と結ばれますが、今回の鯉沼は、
おそらく香澄が治るのをずっと待つって感じでしょうか。
終盤は、それまでは影の薄かった鯉沼の母が、
夫に見捨てられた自分を香澄に重ね合わせて?
セフレに移りつつあった鯉沼の気持ちを
香澄に引き戻したりしていましたね。
ラストシーンの鯉沼の「いつまでも待っている」というセリフ、
そしてその返事ともいえる、香澄の手紙の中の
「あなたの言葉(↑)を頼みに生きている」
という展開は良かったですね。
「最後はキレイに締めたな」と思いました。
このあたりはさすがは純愛で話題になった
セカチュー」の作者の作品らしいなって感じですね。