「蘭陵王」(はてな年間100冊読書クラブ 14/100)

蘭陵王

蘭陵王

  • 一冊で完結しているので、続きが気になることもなく…(笑)

著者・田中芳樹氏のライフワークになりつつある、
中国物の最新刊ですね。田中さんは作家としては
遅筆で有名です(笑)シリーズ物で遅筆されると、
読者になると、「続きが早く読みたいのに」
と思ったりして大変迷惑を被ってしまいます(^^;)
しかし本作は、この本一作で完結しているので、
そのあたりの心配はないですね(笑)

さて、本書の舞台は、中国の南北朝時代の終盤頃ですね。
後に隋を建国する楊堅も、ストーリーの中に登場してきます。
南北朝のうち、分裂した北朝の一方を占める
斉国(北斉)の皇族の一人が、主人公の蘭陵王ですね。
この蘭陵王舞楽で有名とのことですが、
浅学な私の領域の範囲外であり、
舞楽については、この本を読んではじめて知りました…(^^;)
北斉は、蘭陵王の祖父・高歓が基礎を築き、
その後を長男で蘭陵王の父・高澄が継ぎます。
しかし、高澄が殺されると、実権は高澄の弟へと移ってしまいます。
そのため、蘭陵王とその兄弟は、
時の王の嫌疑を受けないように
大人しくひっそりと暮らしていくことを余儀なくされますね。
その後も、北斉の王家は、王が死亡して息子の幼少の王が即位すると、
死んだ王の弟が帝位を簒奪して、幼少の王を殺害する、
といった展開の繰り返しで、安定していません。
代わりに王位に就いた王も、
酒乱・暴君・暗君であったりすることが多く、
北斉の国勢は下降一直線といった塩梅です。

  • 戦場で常勝を誇り、民や兵に慕われるのですが、自らは立ち上がらず…

そのような状態の中で、主人公の蘭陵王は、
ライバルである、北朝のもう一つの後継国・周国(北周)や
南朝・陳国との戦いでは、常に勝利を収めます。
加えて美形ということもあり、
庶民や兵士の間で人気が高まりますね。
美形のため、後の世に舞楽として取り上げられたそうです。
その気になれば、蘭陵王は、暗君を廃して
自ら王位に就くクーデターに踏み切ることも
可能だったと思われます。
しかし、蘭陵王は立ち上がることなく、
最後は王に妬まれて、自殺に追い込まれてしまいますね。
その常勝の戦いぶりが華々しかっただけに、
暗君に逆らうことなく、従容として死に就くところは
少々納得が出来ないところですが、
蘭陵王は皇族であるだけに、血縁関係のある王を
倒すところまで踏み出せなかったのかな…と思います。

  • 明るいヒロインが、物語に息吹を吹き込んで

優秀で申し分ない主人公・蘭陵王は、
最後には死に追い込まれてしまいますし、
王家は暗君・暴君の即位が繰り返されたりして、
ストーリーは全体としては、
閉塞感が漂ってしまう展開になってしまっています。
その中でストーリーに花を添えているのが、
ヒロインの徐月琴ですね。
全体的な閉塞感を吹き飛ばすような、明るく快活な性格で、
蘭陵王とのラブストーリーも盛り込まれています。
まぁ、二人が結ばれるのは、
蘭陵王が死を覚悟した時ということで、
悲劇的な展開からは逃れられないのですが…